そあん(soan)プロフェッショナル版について

そあん(soan)プロフェッショナル版」(以下、プロ版と言います。)は、古活字画像を用いて現代日本語テキストを描画するライブラリ「そあん(soan)」(以下、通常版と言います。)にいくつかの実験的な機能を加えた拡張版です。このページでは、プロ版と通常版との違いを説明します。

目次

形態素解析の利用

そあん(soan)が利用する「古活字データセット」には、現在「変体仮名」と呼ばれるかなの活字や連綿(続け字)活字が含まれています。古活字が利用されていたころ、複数存在する変体仮名の字体のうち、どの字体の活字を用いるかの選択や、連綿活字/単体活字の選択は、何らかの基準や事情によって行われていたものと思われます。

変体仮名については、語頭/語中語尾/助詞等の区分によって字体が使い分けられていたとの指摘があります[1][2]。また、文章内の連綿や踊り字は、古典籍では文節を考慮していない例も見られますが、現代の感覚としては、文節をまたいだ連綿や踊り字には違和感があるかと思います。

そあん(soan)では、入力されたテキストに対して形態素解析(テキストを分割し、品詞などの情報を付与する処理)を行い、その結果を利用して、変体仮名の使い分けや連綿活字の選択などを行っています。

問題点

そあん(soan)では、ブラウザ上で動作する形態素解析器として「kuromoji.js」を利用しています。この形態素解析器で利用できる形態素解析辞書(mecab-ipadic)は、現代日本語向けのものであり、明治大正期の文学作品や、いわゆる古文などを解析した場合、正しい結果が得られないことがあります。

例として、「ありにしも あらずなりゆく 世の中に かはらぬものは 秋の夜の月」という和歌を考えます。

このテキストは、kuromoji.jsでは下表のように形態素解析されます。

表層形 品詞 品詞細分類1 品詞細分類2 品詞細分類3 活用型 活用形 基本形 読み 発音
あり 動詞 自立 * * 五段・ラ行 連用形 ある アリ アリ
助詞 格助詞 一般 * * *
動詞 自立 * * サ変・スル 連用形 する
助詞 係助詞 * * * *
あら 動詞 自立 * * 五段・ラ行 未然形 ある アラ アラ
助動詞 * * * 特殊・ヌ 連用ニ接続
なり 動詞 自立 * * 五段・ラ行 連用形 なる ナリ ナリ
ゆく 動詞 非自立 * * 五段・カ行促音便ユク 基本形 ゆく ユク ユク
世の中 名詞 一般 * * * * 世の中 ヨノナカ ヨノナカ
助詞 格助詞 一般 * * *
助詞 副助詞/並立助詞/終助詞 * * * *
はら 動詞 自立 * * 五段・ラ行 未然形 はる ハラ ハラ
助動詞 * * * 特殊・ヌ 基本形
もの 名詞 非自立 一般 * * * もの モノ モノ
助詞 係助詞 * * * *
名詞 一般 * * * * アキ アキ
助詞 連体化 * * * *
名詞 副詞可能 * * * * ヨル ヨル
助詞 連体化 * * * *
名詞 一般 * * * * ツキ ツキ

「かはらぬものは」(変わらぬものは)の部分を見ると、「か(助詞)+はら(動詞;発音「ハラ」)+ぬ(助動詞)+もの(名詞)+は(助詞)」という誤った解析結果になっています。

先に述べた変体仮名の使い分けについて、「か」は、助詞のときは「可」を字母とする変体仮名、助詞以外のときは、語頭では「加」を字母とする変体仮名、語中語尾では「可」を字母とする変体仮名と使い分けられる傾向があり、ワと発音される「は」(助詞の「は」を含む)については「八」を字母とする変体仮名が用いられる傾向があったと指摘されています[1][2]。

形態素解析結果に基づいて変体仮名の使い分けを考慮すると、「か」は助詞と解釈されているため「可」を字母とする変体仮名が、「はら」は助詞ともワと読むものとも解釈されていないため「八」ではない字母の変体仮名が選択される可能性が高くなります。

しかし、正しく形態素解析を行うならば「かはら(動詞;発音「カワラ」)+ぬ(助動詞)」となり、「か」は非助詞・語頭であるため「加」を字母とする変体仮名を、「は」はワと読むので「八」を字母とする変体仮名を使ってほしいところです。

字母・連綿の指定

こうした点に対応するため、プロ版では字母や連綿を全角の角括弧([])を用いて指定できるようになっています。

先ほどの例であれば、入力テキストを「[加][八]らぬ」とすることで、「加」を字母とする変体仮名と「八」を字母とする変体仮名が用いられるようになります。

しかし、この指定では「はら」の部分は連綿ではなくなってしまいました。「古活字データセット簡易KWIC検索」を用いると、字母を「八良」とする連綿活字が利用できることが分かります。そこで入力テキストを「[加][八良]ぬ」とすると、「はら」の部分を連綿とすることができました。

なお、生成画像に角括弧を表示したい場合は、半角の角括弧([])を用いて入力してください。

形態素解析の切れ目の指定

また、別の例として「ねこのここねこ」というフレーズを考えます。

このテキストは、kuromoji.jsでは下表のように形態素解析されます。

表層形 品詞 品詞細分類1 品詞細分類2 品詞細分類3 活用型 活用形 基本形 読み 発音
ねこ 名詞 一般 * * * * ねこ ネコ ネコ
助詞 連体化 * * * *
ここ 名詞 代名詞 一般 * * * ここ ココ ココ
ねこ 名詞 一般 * * * * ねこ ネコ ネコ

この形態素解析結果に基づいて文節にまとめあげると、そあん(soan)では「ねこの」「ここ」「ねこ」と文節分けされます。

古活字データセットで「ここ」または「こゝ」の連綿活字が利用できる場合、その部分は連綿になりますが、正しく解釈された文節分けに基づいて文節をまたぐ連綿を避けたい場合、これは望ましい結果とは言えません。

こうした点に対応するため、プロ版では形態素解析の切れ目を半角のスラッシュ(/)を用いて明示できるようになっています。

先ほどの例であれば、入力テキストを「ねこのこ/こねこ」とすることで、「ここ」が連綿となることを回避できます。このときスラッシュは生成結果に表示されません。

なお、生成画像にスラッシュを表示したい場合は、全角のスラッシュ(/)を用いて入力してください。

古文モード

これらの指定を用いることで生成結果を望みの形に近付けることができますが、比較的長い古文を入力テキストとしたい場合、個々の箇所に明示的な指定を行っていくことは手間がかかります。

こうした点に対応するため、プロ版では入力テキストを古文(中古和文)として形態素解析する「古文モード」を用意しています。古文モードでは、入力テキストをサーバに送り、サーバ上で古文用の形態素解析辞書「中古和文UniDic ver.2023.08」を用いて解析結果を得ます。

古文モードでは、一部の語彙の読み方が現代語とは異なる点に注意してください。また、現代文を古文モードで解析した場合、正しい結果にならない可能性があります。くずし字画像生成後、「画像テキスト」ボタンから、生成に用いられた画像テキストを確認してください。

例えば、「サンプルテキスト」ボタンの押下で表示される中島敦『山月記』において、「潔し」は、通常モードでは「潔し(形容詞;発音イサギヨシ)」と解析されますが、古文モードでは「潔し(形容詞;発音キラギラシ)」と解析され、古活字データセットに「潔」の登録がない場合、「きらきらし」とくずし字画像化されます。また、「耽った」は、通常モードでは「耽っ(動詞;発音フケッ)+た(助動詞)」と解析されますが、古文モードでは「耽(動詞;発音フケリ)+った(感動詞)」と解析され、古活字データセットに「耽」の登録がない場合、「ふけりつた」とくずし字画像化されてしまいます。

なお、サーバ上での形態素解析は同時処理数に制限があるため、混み合っているときは処理に失敗することがあります。そのような場合は、お手数ですが時間をおいてお試しください。安定した品質でサービスが提供できないと判断した場合、古文モードの提供は予告なく停止する可能性があります。

また、サーバ上で形態素解析したテキストについて、サーバ上で意図的に蓄積することは一切行っていませんが、予期せぬシステムトラブル等に備え、守秘性の高いテキストの入力はお控えください。

シード値の指定機能

そあん(soan)では、複数の古活字画像が利用できる場合、乱数を用いて古活字画像が選択され、生成ごとに異なる結果になります。このため、古活字画像の組み合わせは維持しつつ画像設定(字詰めや用紙など)のみを変えることはできませんでした。

こうした点に対応するため、プロ版では「シード値」を指定することで、一度生成した結果と同じ古活字画像の組み合わせでくずし字画像を生成できるようになっています。

一度生成した結果と同じ古活字画像の組み合わせを維持したい場合、生成された画像の下部に表示される「Seed」の数値(負の数であることもあります)を「設定」の「シード値」に入力して、画像生成を行ってください。

作例

これらの指定を用いて、『伊勢物語』のパロディ『仁勢物語(にせものがたり)』を古活字組版画像化した例を挙げます。現実には存在しない、いわば「似せ嵯峨本『仁勢物語』」です。

似せ嵯峨本『仁勢物語』
似せ嵯峨本『仁勢物語』

生成画像のライセンス

通常版と同じく、プロ版を用いて生成した画像は自由に利用できます。

参考文献

[1]: 高田 智和, 矢田 勉, 斎藤 達哉, 変体仮名のこれまでとこれから 情報交換のための標準化, 情報管理, Vol.58, No. 6, pp. 438-446, 2015. doi:10.1241/johokanri.58.438

[2]: 白井 純, キリシタン版の日本語と印刷術についての研究, 北海道大学, 博士論文, 2021. doi:doi.org/10.14943/doctoral.r7145

関連リンク

主な更新履歴

  • 2023-12-06 「プロフェッショナル版」(v1.1)として公開(旧「機能追加カスタム版」はこちら
  • 2023-10-02 「機能追加カスタム版」に名称変更
  • 2023-09-18 「白色雲母摺模様本文料紙版」(v1.0)として初公開